2016年08月06日

伊東 忠太2

       一 太古の家と地震
 昔、歐米の旅客が日本へ來て、地震のおほいのにおどろくと同時に、日本の家屋が、こと/″\く軟弱なる木造であつて、しかも高層建築のないのを見て、これ畢竟地震に對する災害を輕減するがためであると解してくれた。
 何事も外國人の説を妄信する日本人は、これを聞いて大いに感服したもので、識見高邁と稱せられた故岡倉覺三氏の如きも、この説を敷衍して日本美術史の劈頭にこれを高唱したものであるが今日においても、なほこの説を信ずる人が少くないかと思ふ。
 少くとも日本建築は古來地震を考慮の中へ加へ、材料構造に工風を凝らし、遂に特殊の耐震的樣式手法を大成したと推測する人は少くないやうである。
 予はこれに對して全く反對の意見をもつてゐる。今試みにこれを述べて世の批評を乞ひたいと思ふ

       一 ばけものの起源
 妖怪の研究と云つても、別に專門に調べた譯でもなく、又さういふ專門があるや否やをも知らぬ。兎に角私はばけものといふものは非常に面白いものだと思つて居るので、之に關するほんの漠然たる感想を、聊か茲に述ぶるに過ぎない。
 私のばけものに關する考へは、世間の所謂化物とは餘程範圍を異にしてゐる。先づばけものとはどういふものであるかといふに、元來宗教的信念又は迷信から作り出されたものであつて、理想的又は空想的に或る形象を假想し、之を極端に誇張する結果勢ひ異形の相を呈するので、之が私のばけものゝ定義である。即ち私の言ふばけものは、餘程範圍の廣い解釋であつて、世間の所謂化物は一の分科に過ぎない事となるのである。世間で一口[#ルビの「くち」は底本では「くに」]に化物といふと、何か妖怪變化の魔物などを意味するやうで極めて淺薄らしく思はれるが、私の考へて居るばけものは、餘程深い意味の有るものである。特に藝術的に觀察する時は非常に面白い。
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